矛盾する気持ち





矛盾する気持ち 





意識が浮上する。
目の前に写っているのはやたら綺麗な天井。

(ここは……どこ?)

寝起きのぼんやりとした頭で状況が分からない。
ただなんとなく見覚えがある景色な気がする 。

ふとみじろいだ時に違和感を覚えた。 身体が異常にだるいと思っていたが、自分の首から下を見たときに全てを思い出した 。

何も纏っていない生まれたままの姿。

(………私、また抱かれたのね )

気まぐれに手を出されたのはついこの前。
『重ねられる恋はごめんだ』と言った口で『気が変わった。暇潰しに付き合ってもらおう』と言われた。
最初の頃は警戒していたのに、何度も訪れる内に安心してしまった。“安心”“安全”なんてこの男から最も離れた言葉なのに。
抵抗しなかった私も悪かったかもしれないけど、抵抗したところで同じなら一緒だろう 。

その時は何が何だか分からないうちに終わった。痛いとかそういうことはなかった………ような気がする 。
正直、いまいち覚えていない。
残っているのはただ強い感覚に思考が全て流れてしまったこと。それと目覚めた時ソファに一人だったことだ。

ハジメテだった女を抱いた後放置したことにもちろん怒りをおぼえたし、私自身のことは放置のくせに私の服は綺麗に畳まれて机に置かれていたのは癪だった。
だが、これで自分への興味がなくなったと思うとどこか安心する自分がいることにも気付いていた。
あの顔に弱いのかあの男に弱いのか分からないが、あの人に見つめられ触れられるととても危険に感じる。身体だけでなく心まで暴かれている気になってしまう。

だが、所詮余所者と名が付いたるだけの女。しかも処女の相手なんてつまらなかっただろう。
とりあえず私への興味はなくなったと思いその数時間帯後、私は彼の部屋を訪れてしまった。
まぁそれまで借りていた本がシリーズものというのが大きな理由だったのだが……

部屋をノックして入ったとき、私を見たブラッドの目が少し見開かれていたように感じた。私はその視線を無視して本棚までいき借りてた本を返し続きの本を抜き出す。その間向こうから反応が特に何もなかったから、やっぱり私への興味はなくなったと安心した。だから、そのままソファに移動してその新しい本を読み始めた
………のだが気配もなく移動したブラッドにすぐ押し倒されてしまった。

「お嬢さん、君は一体何をしにここに来たのかな?」
「もちろん本を読みに来たに決まっているじゃない。馬鹿じゃないの」
「君の行動の方が愚かだと私は思うがね」

そう言いながらエブロンの紐をほどいていくブラッド。

「私程度じゃ暇潰しにもならなかったでしょ。どいて」

押し返そうとするがびくともしない。

「いいや。すごくいい暇潰しになったよ。なかなか楽しかった」
「私は楽しくなかったわ。いいからどいて」
「大丈夫だよ、お嬢さん。これから段々楽しくなるはずだから」

このままだとまた流されてしまう。そう分かっていても私にはどうすることもできなかった。

二度目の夜もそんな感じで抱かれてしまい、気が付いたら一人だった。今回もまたいない。
もう片手では数えきれない回数になってきているのに……。
ここ数回は私が目覚めたときには側にいたのだが、きっとそれも気まぐれだったのだろう。

本当にあの男は、自分の楽しみのためだけに私を抱いてくるのだ。
胸を触り芽をいじり、私の中心に己を突きたてる。私には逃れる術もなく、ただ受け入れることしかできない。
私がどんなに苦しいのか分かってないし、理解する気もないのだろう。


では、私はなんでそんな男のもとに通ってしまうのだろうか。いくら夢の中の出来事だろうが、笑って許されることではないはずなのに。
それはもちろん行かなければ、向こうからやって来るからだ。数十時間帯会わないことがあったのだが、それはそれは恐ろしい目にあった。 これなら自分から行った方がましである。

………ならば滞在地を変えてしまえばいいのだろう。どこに行ったとしても余所者の自分を追い払う人はいないだろうし、最悪ペーターにでも頼めば衣食住には困らない。


でもどうしてか、そこまでしようとは思わなかった。


ふと下を見ると紅い痕が残っていた。………左胸に一つ。そう言えば、一度だけ鋭いでも鈍い痛みが走った。熱に浮かされるなかで鮮明に残っている記憶。
所有印なんていらない。キスすらしないのに痕なんて。

愛もないのにこんなことができる男が信じられないが、決して愛されないと分かっているからただれた関係を続けることができている。
矛盾しているようだけど確かに成り立っている関係。

何もくれなくていい。何もしなくてもいい。


―――だから私に何も残さないで










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