「やはり私の見立ては間違ってなかったようだ」
部屋に入ってきたブラッドが私の姿を見るなり開口一番に感想を言った。 「いったいこれはどういうことなのよ、ブラッド」 私は困惑したように言った。 「何とは?」 「惚けないで。何か意味でもあるの?」 本当に訳がわからない。私は仕事が終わったら部屋へ戻って本を読もうとしていた。 それなのに仕事が終わった瞬間、メイドさんたちが一斉に駆けつけたかと思えば、控室らしい所でドレスに着替えさせられた。 クラシカルなシックのドレス。とても自分好みで素敵なのだが。 髪を巻かれ、メイクを施された私はパーティーか何かと思った。 「私、何も聞いていないわよ?」 パーティーなら事前に言ってくれれば一緒に準備したかったとブラッドに言う。 しかし、ブラッドは笑った。 「ああ、それなら心配ない。パーティーではないからな。君を」 夜会に連れて行くための格好だ。そう耳元で囁かれる。 夜会という言葉に困惑していた頭が冴え渡った。 「夜会!?冗談じゃないわよ!」 「冗談ではないのだが」 「ふざけないで!」 夜会なんてとんでもない。 そもそもブラッドの傍に立つことさえ似合わない私が、彼と夜会に行くなんて無理だ。 婚約者として周りに見せびらかしたいブラッドと違い、私にはそんな度胸などない。 ブラッドにとってはつまらない場所だろうが私には荷が重い。 おそらくブラッドと関係があった女性たちも大勢来るだろう。 そんな中に私が入ったら、跳んで火にいる夏の虫だ。 身体から始まった関係の私たちが今は恋人同士でいることが不思議なのに。 そんな私の考えを見抜いたのか、ブラッドは溜息を吐いた。 「私は見せびらかしたいんだが」 「私はごめんだわ」 似合わない場所へ行くほど愚かな私ではない。 きっと嫉妬するであろう彼と関係があった女性たちを見てしまえば私の卑屈な心は余計に黒くなるだけだ。 わかっているだけに落ち込む。 すると、不安な表情が出ていたのかもしれない。ブラッドは私を腕の中に閉じ込めた。 「アリス。言っておくが今回の会場はここだ」 その言葉を聞いて余計にイラッと来た。この屋敷が会場になるということは。 「へえ・・・つまり、関係のあったご婦人方を呼ぶのね?さすがマフィアのボスってことかしら?」 「何でそうなるんだ・・・」 ブラッドががっくりと落胆したように肩を落としたかのように見えた。 わかりにくい男なのでポーズなのかもしれない。 だけど、覗いた瞳の奥にイラつきが見えているのは気のせいだろうか? 「夜会といっても内輪のものだ。幹部や同盟ファミリーしか呼んでいない」 これは帽子屋ファミリーのボスの未来の妻になる者の証明になるとブラッドはそう言う。 「私が、無粋な輩を呼ぶと思ったか?」 「・・・別に?ブラッドはマフィアのボスだもの。私のほかに奥さんや愛人がいてそうだもの」 皮肉気味に切り返せばブラッドは余計に不機嫌な表情をした。 相変わらず可愛くない答え方。けれど、実際に不安なのだ。 私がブラッドの傍にいてもいいのだろうかと。 「私は一度はまったものは飽きたりしないし、一途だと言ったはずだ」 そう言ってブラッドは私の唇に深く唇を重ねた。 「ん・・・ふあ」 「ふ」 唇を離して、キス名残から銀糸が引く。 「どうやら君は私の愛情が信じられないらしい」 それを聞いて嫌な予感が背筋に走る。まさか・・・。 「ならば、愛情を確かめるにはあれしかないな。アリス」 ブラッドの怖い笑みが私に迫る。 「あ・・・あの、夜会は?」 「ああ、あれはいつでも始められる。私の気分次第でな。では、アリス」 私の耳元で囁かれる。 「ベッドの上で私を信じさせてくれ」 それからベッドからようやく離してくれた私がぐったりしたまま夜会に出たのは十数時間帯後だった。 NOVELに戻る |